企業主導型保育園を開園する際に最低限抑えるポイント
本ページは、保育園を開園したいと思われている方が、どのような順序と手順で保育園を開園したら良いかに的を絞って建築設計の立場からご説明させていただきます。皆様方のお役に少しでも立てましたら幸いです。
>>企業主導型保育園の物件選定は、なぜ難しいのか
企業主導型保育園は、どんな建物でも開園できるわけではありません。現行の建築基準法に適合した既存建物で、「建築基準法」「消防法」「食品衛生法」をまずクリアすることが必要です。不動産会社と設計士が把握せずに進めてしまった場合、もしくは、十分な説明を受けずに契約し、着工してしまった場合、工事完了後に「実は違法建築物だった」「実は消防法をクリアしていなかった」「消防法をクリアする為に多額な費用が掛かってしまう」など、開園できない、補助金申請する為の必要書類が揃わないなど思いもよらないアクシデントに巻き込まれる可能性があります。運営者さまや担当者様ご自身が肝となる知識を付けていただき無駄な時間とコスト、労力を省いていただければと思います。本文を理解し物件選定に当たれば、対象物件が半分以上絞られることでしょう。それだけ、保育園を開園できるテナント物件は希少です。
企業主導型保育園の開園を決意し物件選定まで進んだら
<テナントを借りて開園を希望の場合>
1. 希望のテナントの階数
2. 建物全体の規模がどのくらいあるか
3. テナントの面積が200平米を超えるか
4. 避難経路が2方向取れるか
5. 条例に適合させられるか
6. 窓があるか、開閉できるか?
7. 確認済証、検査済証が発行されているかどうか
この7点をまず確認してください。
1. 希望のテナントの階数 ⇒ 1階をお薦めします。2階以上の場合は、基準に基づいた避難経路や準耐火建築物以上であることなど、1階テナントより条件が厳しくなります。
2. 建物全体の規模がどのくらいあるか ⇒ 借りるテナントの建物全体を見て延床面積を把握してください。300㎡以上あると思われる場合、自動火災報知設備があるか確認してください。最寄りの消防局で、住所を伝え、この場所で保育園を開園したい旨を伝えると、その建物に現在設置されている消防設備を教えてくれます。
3. テナントの面積が200平米を超えるか ⇒ 建築基準法上の用途変更が必要です。地域によっては200㎡以上でも用途変更の確認申請を要さない場合があります。管轄の建築指導課が用途変更が必要と判断されたら、その建物の新築時の確認申請書、完工後の完了検査済証が発行されているか確認してください。こちらが揃わない場合、用途変更ができず開園できない可能性が高いです。
4. 避難経路が2方向取れるか ⇒ 出口が2箇所以上ありますか?現状で出口が見当たらないない場合、新たに設けることができますか?新たに設ける場合は構造壁ではありませんか?保育園は2方向の出口が必要です。
5. 条例に適合させられるか ⇒ 特に都内の場合、バリアフリー条例で外部と内部の段差を無くし、車椅子の方が入りやすい街づくりを提唱しています。外部との段差がスロープで解消できる余剰スペースがない場合、保育園の開園は難しくなります。1階で敷地一杯に建物が建っていて段差がある場合、バリアフリー条例で必ず適合させることが義務付けられている地域は、保育園の開園ができない物件です。気づかずに進めると後で、困ることになってしまいます。
6. 窓があるか・開閉できるか ⇒ 保育室には光の入る窓が必要です。道路に面している窓がありますか?隣地に面した窓では光が差し込んでいたとしても建築基準法上の採光が足りない場合があります。道路に面した大きな窓がある物件をお薦めします。また、窓が開閉できるかも重要です。保育園内に充分な換気が取れているかを判定します。窓があっても開閉しない場合は必要換気が取れない場合があります。開閉できない窓の場合、開閉できる窓に変える事で必要換気を確保できる場合があります。取替えできるか建物オーナーに確認する必要があります。物件選定時は開閉できる窓や扉があるかを確認し、換気計算により判定します。
7. 確認済証・検査済証があるか ⇒ 保育園は現行の建築基準法に適合していないと開園できないとお考えください。「違法建築物」「既存不適格物件」では、建物の見た目がきれいでも開園できない可能性が高いです。特に検査済証は建物の竣工時に最終的に法律に適合してつくられていることの証でもありますので、検査済証が発行されている建物とそうでない建物は全く異なります。検査済証が発行されている建物で開園することをお勧めします。
<新築の場合>
1. 建物が建てられる土地かどうか ⇒ その場所が保育園を建設して良い場所か確認する必要があります。宅地などがよいです。
2. 広大な土地かどうか ⇒ 県の開発許可申請、開発指導要綱に抵触する場合、建物が建てられる土地に造成するところから始めないといけない場合があり、計画が1年以上かかる場合があります。余りに広い土地は現実的ではありません。
3. 隣地との高低差があるかどうか ⇒ 建物は建設予定地の区画だけで判断できません。隣の土地と高低差がある場合、造成の必要があったり、隣地との距離が必要だったり、杭を打たなければいけない場合など、隣地がどうなっているかが重要です。隣の土地も調査が必要です。
>>テナント物件選定時、気をつけるべき消防法
物件選定で見落としがちな内容に消防用設備があります。ご担当されている設計士が保育園の建築基準法は良く知っていらっしゃっても、消防法が知らなかったケースも見受けられますので、今回はコストに反映する消防用設備をご説明いたします。
開園時間8:00~20:00程度の昼の時間に開園
100㎡前後のテナントで開園する認可外保育園の場合を想定
寝泊りがある場合や、そのほかのケースでこちらに属さない場合がありますので、確実に専門家の調査の上、物件選定を行ってください。まず、概要を知っておくだけで、物件が絞られますので、お役立てください。
良さそうな物件が見つかったら、まず、その建物全体の延床面積を調べてください。
建物を管理している不動産会社に以下の3点を準備してもらってください。
①建物全体の配置図
②開園希望の階数の平面図
③建物全体の立面図
図面はできるだけ不動産会社に各階数の平面図も提出してもらうようにしてください。この中で、延床面積と記載がある場所を探していただき、建物全体の延床面積を把握してください。消防法では、テナントで物件を探す場合、消防法は「(6)項ハ」に属するケースが多いです。
簡単にご説明すれば、「自動火災報知設備」、「屋内消火栓設備」が要注意です。
「自動火災報知設備」
知らずに進めると、後で数百万円の設備を建物全体に入れないと開園できないといった自体にさらされます。
建物全体で300㎡があると、建物の全ての各部屋及び収納などに「自動火災報知機」を設置しなくてはなりません。これは、保育園をするテナント内だけでなく、建物全体に必要なため、上の階が住居の場合、各部屋に入り火災報知機を設置しなくてはならず、その工事費も高額になります。建物全体が300㎡以上あるかどうかを、まず調べて、延床面積が300㎡以上あって自動火災報知設備が建物全体に導入されていない場合は、現実的に後付けは大変ですので、物件候補から外す方が賢明です。
「屋内消火栓設備」
消防法に「無窓階」という言葉があります。「無窓階」とは避難経路の取れない窓の無い階を表します。避難に使える有効幅1Mの、道路に出ることができる敷地(通路)に面した窓がない場合、保育園の床面積150㎡以上で「無窓階」に判定されることがあります。この場合、建物の規模にも「屋内消火栓設備」を建物全体に設置しなくてはいけない場合があります。元々設置されていれば問題ありませんが、設置されていない場合は、現実的には難しいでしょう。
気を付ける点は、窓の外に出ても通路が狭い。窓が小さい。シャッターがついている。などが要注意です。こちらも建築基準法上の採光計算はクリアして、消防法で屋内消火栓設備を追加で設置しなくてはいけない条件などだった場合に後で困ります。消防局で物件候補になった時点で先に確認してください。